2007年2月アーカイブ

 引きつづき 『タラシュク家の闘技場』 のシナリオ考察を行います。
 前回タラシュク家と、その本拠地シャドウ・マーチに隣接するモンスター国家ドロアーム国の成立過程、そして国を統べる三人の妖婆〈ソラ・ケールの三姉妹〉について触れました。
 今回はまず〈ソラ・ケールの三姉妹〉がドロアームの国をいかに運営していったか、そしてそこにどのような形でタラシュク家が関与していったかについて述べ、ついでタラシュク家デニス家との確執、暗黒大陸での暗闘について解説します。その後ふたたびシナリオを振り返ってタラシュク家の闘技場について考察し、最後にダージ・オブ・カルナスという男について想像してみたいと思います。

 お待たせしました。DDOのファーストモジュール〈竜の宝物庫〉の中核をなすキャンペーンシナリオ〈常夜界の宝物庫〉、その第1章 『タラシュク家の闘技場』 の地図です。
 今でこそモジュールも3.3を数え、海外でははやモジュール4までも予定されています。しかしDDOが発進したばかりの頃は、このMMORPGが――その特殊な出自ゆえに――ぶじ軌道に乗るか乗らぬか、かなりの点で予測不能だったに違いありません。

VoN1.jpg
 兎にも角にもファーストモジュールに対するプレイヤーの反応如何でプロジェクトの浮沈が決定づけられるという認識はあったのでしょう。〈常夜界の宝物庫〉は、ゲーム性、ダンジョン設計、テクスチャ美術、そして脚本ともに他を圧倒する完成度であり、ライターやデザイナー諸氏が持てる力の全てを注ぎ込んだと言っても過言ではないほどの出来栄えになっています。
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 筆者視点のえをさせていただきますと、MMOの継続的なコンテンツ提供にかけられる労力は、小説作家のそれに良く似ています。  デヴュー当時の作品、とくに処女作や新人賞応募作は、その作家が今まで何年ものあいだ温め続けてきた、持てるアイデアの全てを出し切った渾身の作であることがほとんどです。  しかしひとたびプロになれば、そのような全力疾走の書き方を続けるわけにはいきません。たちまちネタ切れになって口に糊することすらできなくなってしまうからです。  手持ちのアイデアをいかに小出しにして、着想と執筆の足並みを揃えていくか、これを徐々に覚えてゆくのが、プロ作家の成長の一側面ではないかと思います。

 MMOのコンテンツ提供も良く似ています。
 初期のクエストでは、目に見えるところを入念に作り込むことはもちろん 「語られぬ部分」 にまで驚くほどの労力を払っています。たとえばみなさんお馴染み 『絡根渓谷』 の、毒蟲に刺されて死ぬ男の変容ぶり。戦闘中に見せる雑魚キャラクターの台詞ストックの多さ。これらの要素、最新モジュールのクエストにも残っていますか?
 これらは言うまでもなく、あっても無くてもクリアには差し支えありません。しかしこういった部分がコンテンツを重ねるごとに、創り手の 「ゆとり」 を推し量る最も信頼できるバロメーターになっていくのだと、筆者は考えています。

 その点、おそらくはプロジェクトの成否をかけて送り出したであろう〈常夜界の宝物庫〉は質量ともに贅沢極まるつくりをしており、rushするだけでは決して分からない重層的なシナリオ設定の妙は、調べれば調べるほど読み手を楽しませてくれます。

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 さて第1章 『タラシュク家の闘技場』 ですが、出だしから設定の背景が暗黒大陸のみならず新大陸にまでおよぶ広大な内容であり、週末に一気に書き上げたはよいものの、気がつくと(VoN1だけで)400字詰め原稿用紙40枚分という非常識な量になってしまいました。  やむなく前後編に分け、今回はキャンペーンシナリオ〈常夜界の宝物庫〉と第1章 『タラシュク家の闘技場』 それぞれの導入部のあらすじ、そしてシナリオ理解に不可欠なタラシュク家とドロアーム国について予習してみたいと思います。

 それでも長いです。覚悟してください。

 先週から〈常夜界の宝物庫〉の記事を書きはじめています。
 そこで気づいたのですが、ここから先はどうやっても新大陸の話題を避けて通るわけにはいかないようです。
 DDOのシナリオ設計の常として、新大陸についても下級クエストから順番にこなしていくことである程度の知識は身に付けることができます。しかしそれらはあくまで断片的な情報であり、大陸――というより新大陸の上で成立している近代社会――の全体的なイメージを 『エベロン・ワールドガイド』 無しで掴むのは至難の技です。とはいえ、設定上キャラクターのほとんどが新大陸から暗黒大陸へ渡ってきたというのに、当のプレイヤーが故郷に関する知識を十分に得られないというのも理不尽な話です。

 そこで次回からのシナリオ鑑賞の下準備として、簡単なコーヴェア地図を作成してみました。

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 モジュール3.1〈悪しき復活者〉で追加された新クエストのひとつ 『ウィスパードゥームの落とし仔』 の地図です。

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 このクエストは冒険者が序盤にお世話になる連続シナリオ 『絡根渓谷』 の後日譚にあたります。  新大陸のゴブリノイド国家であるダーグーンから暗黒大陸へと派遣されてきたウンガルズ大佐が、支配に抵抗する地元のホブゴブリン氏族である〈砕きドクロ族〉を平定すべく冒険者と協力して城砦を攻略する、というのが 『絡根渓谷』 のお話でした。  あのとき〈砕きドクロ族〉の長ヤークシュ・リックスピットルは、砦の守りを固めるために内部の洞窟に巨大な女王蜘蛛ウィスパードゥームを棲まわせていました。彼女に食料として奴隷を提供する代わりに、彼女の娘たち〈落とし仔〉を用心棒に借り受ける、という同盟を結んでいたのです。

 城砦が陥落しホブゴブリンとの同盟関係が反故になったのも束の間、今度は彼女はオーガメイジ部族に連れ去られます。
 いままでの数倍にも及ぶ広さの住居を与えられ、ふたたび新鮮な餌を約束され、あまつさえ魔法の力までも授けられ、以前に比べると破格の待遇を手に入れた彼女。より強力な娘たち〈落とし仔〉を産み出し、今一度強力な軍隊をつくりあげ、オーガ達に提供しようとしています。冒険者たちはこの新たな同盟を打ち砕くことができるでしょうか。

 …と、シナリオそのものは公式の告知そのもので単純明快、なにひとつ考察する余地がありません。
 そこで今回は 「脇役」 あつかいのオーガメイジについて触れたいと思います。

 モジュール3.1〈悪しき復活者〉で追加された新クエストのひとつ 『そして死人が蘇る…』 の地図です。ダンジョンの入口はジョラスコ自治区にあるデレーラ墓地の北西、〈ヴァリドゥスの巨塔〉です。

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