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そして死人が蘇る…

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 モジュール3.1〈悪しき復活者〉で追加された新クエストのひとつ 『そして死人が蘇る…』 の地図です。ダンジョンの入口はジョラスコ自治区にあるデレーラ墓地の北西、〈ヴァリドゥスの巨塔〉です。

SpireOfValidus4a.jpg

「そして」 って何ですか 「そして」 って


 このクエストでまず気にかかるのは、『そして死人が蘇る…』 という奇妙な表題です。なんの枕も無く唐突に 「そして」 と書き出されて戸惑わない人は居ないでしょう。何かがあって、死人が蘇る、という文脈で理解されるのが普通ですから、前半部を欠くと気持ちが悪いものです。

 解題のヒントは翻訳前のタイトルにあります。
 And the dead shall rise... というオリジナルの表題は、じつは英語圏ではゲームに限らず広く用いられるフレーズで、聖書を原典としています。

 新約聖書の 『コリントの信徒への手紙1(コリント前書)』 15:52

In a moment, in the twinkling of an eye, at the last trumpet: for the trumpet shall sound and the dead shall rise again incorruptible. And we shall be changed. (Rheims-Douai version、下線は筆者)
 ヘンデルの 『メサイア』 でも、有名なハレルヤコーラスの少し後のところで歌詞として登場しますので、耳にされた事のある方もいらっしゃるかもしれません。

 日本語版ではどうでしょう。手元にある 『舊新約聖書』 では
喇叭の鳴らん時瞬間死人は朽ちぬ者に甦へり、我らはするなり。
 となっています。格調高く素敵な訳だと思います。
 韻文になおすなら
喇叭らんとききのちに
ちざるへと死人へりするなり
 といったところ(勝手訳)。

***
 さて由来は分かりましたが、クエストのデザイナーがそれを意識し、タイトルに何か深い意味を込めたのかとなるとまた別問題です。というのもこのフレーズはあまりにも人口に膾炙し過ぎていて、今さら引用元(=聖書)を念頭に使うとは限らないからです。  そこで英国から来た職場の同僚に、このことについてお聞きしました。簡潔に答えをまとめますと、
1.聖書からの引用であることは一般教養レベル 2.引用されすぎていて宗教的な意図を欠くこともしばしば 3.しかし読み手は 「終末のラッパが何を示すか」 は考えるだろう
 ということでした。  したがってこの表題は、カリファー・ヴァリドゥスの覚醒という本事件の背後に横たわる、シナリオ中では語られぬ別な出来事――引き金――の存在を暗示している、と理解することが出来ます。それが何だったのか、現段階では想像するよりありません。冒険者たちが対峙してゆく他の〈悪しき復活者〉たちとも関係があるのでしょうか。


“ドル・アラーの涙”作戦


 まずこの記事を書くにあたり、ちびさんの先行研究があることを明記しておきます。

 ヴァリドゥスの塔には、探索の完了条件とは直接関係のない不可思議な構造物がいくつかあります。各階の回廊の折り返し点に設けられた小部屋、通称 「ゾンビの間」 の中央に据えつけられている、合計六基の祭壇がそれです。
 プレイヤーがこの祭壇を 「操作」 するとキャラクターはかがんで火を点そうとします。緑色の灯火が明るく燃え上がり冒険者たちのを照らすのも束の間、火はしぼむようにかき消えてしまいます。そして、それっきり何もおきません。
 これらの祭壇への操作が探索の過程や成否になんら影響をおよぼさないため、リッチを倒したあとも多くの冒険者が塔に残り、足を棒にして階段を行き来し、秘密を暴かんと四苦八苦しています。

 「ゾンビの間」 の他にも、長い回廊の果てにはカリファー・ヴァリドゥスの謁見室へと転移する三つの祭壇があります。これらは前述の祭壇とは性質を異にしておりまして、いちど転移に使用することで火が点き、もういちど転移に用いることで火が消える、すなわちそれぞれが独立して 「切換動作」 を行うようになっています。
 となれば使用回数を調節して三つ同時に点灯させてみたくなるのが人情というものですが、悲しいかなそれを行っても何も起こりません。

 さてここでもうひとつ、本筋との関連が不明な構造物があります。
 冒険者たちが塔に足を踏み入れてすぐ目にする、一階中央の噴水です。噴水の縁に立って中を覗き込むと、泉が汚され水は澱んでいる、という思わせぶりな情景をGMが語ってくれます。

***
 ちびさんの記事ではここで 「ドル・アラーの涙」 なる六つの宝石を手に入れ祭壇の着火に成功した、とあります。宝石がその解説のとおり 「邪悪な泉からの水を純化して犠牲の神の涙とした」 ものであるならば、穢された噴水を何らかの手段で浄化することができるはずです。

 そこで野良探索行を募って試行錯誤すること数度、しまいにはギルメンも引っぱり出して、やっと浄化手段が解りました。

噴水には聖職者不死退散をかけることができるのです。
TearsOfDolArrah.jpg
 するとあら不思議、泉の周りに六つの宝石が出現するではありませんか。  この宝石を保有した状態で各回廊の祭壇に着火を試みると、ひとつずつ宝石を消費しながら、消えることのない灯火を点すことができます。
 かくして私達は二階へと歩を進める前に 「ドル・アラーの涙」 を手にすることが出来るようになりました。  となると祭壇への着火は探索行の最後に行うものではなく、上へ上へと登る過程で順に点してゆくものなのでしょうか。もしかして隠し部屋のマミーが出なくなったりするのかもしれません。そこで早速 「ゾンビの間」 での戦闘に際し、開幕早々に祭壇へと突進して着火を試みることにしました。すると……
部屋のゾンビが一斉に吹き飛び、骸骨となって襲いかかってきました。
 難易度ノーマルで試したので笑い話で済みましたが、エリートでこれをやると大惨事になる可能性があります(複数のアーケイン・スケルトンと弓兵の火力集中一斉射撃がかなり危険)。
***
 祭壇に点った灯火の力が 「部屋のゾンビを骸骨へと変容させる」 特殊な機能に限定されているのか、あるいはもっと広義に 「範囲内の敵を“いちど”殺す」 力を持っているのか、それを確かめるために他の敵(レイスやマミー)を祭壇前まで誘導してから着火を行うこともしましたが、ゾンビ以外の敵には何も変化は起きませんでした。  さらに、宝石を消費しないまま、謁見室へと転移する祭壇に飛び込み(=着火し)ましたが、それにより宝石が消費されることは無く、ボス戦にも明らかな影響は認められませんでした。

 というわけで〈ドル・アラーの涙〉を用いて着火した祭壇にはゾンビを打ち砕いて骸骨に変じせしめる作用がありますが、それ以上の効果もそれ以下の効果もありません。
 複数のゾンビをまとめて骸骨へと変える行為は冒険者にとって脅威を増すことに他ならず、したがってより深い設定意図があると考えるべきなのかもしれませんが、現在手元にある材料ではこれ以上の考察は難しいようです。


教科書的なあらすじ


 モジュール3.1〈悪しき復活者〉に共通する特徴ですが、本クエストも登場人物の台詞が少なく、シナリオの骨格を描き出すのに多少の苦労と、幾ばくかの憶測が必要となります。
 カリファー・ヴァリドゥスはかつてこの地で活躍した魔術師で、今はデレーラ墓地と呼ばれている場所に塔を建てて住んでおりました。彼はリッチとなって数百年とされてますが、ストームリーチ市内に居を構えていたことを考えると大したではないと思われます。

 この街はもともと古代巨人族の遺跡都市だったのを近隣の海賊が根拠地として利用し、徐々にコーヴェア大陸との貿易中継点へと発展していったものです。古ガリファー王国と竜紋家によって本格的な開発に着手されたのはたかだか二百年前。
 したがってそれほど「年代物」のリッチでは無いと考えられます。少なく見積もっても齢千年を越える魔導王“永遠なる”レイヤムとは、同じリッチと言っても格の差があります。

***
 しかしヴァリドゥスがリッチとして地上で力を揮う時間はそう長くありませんでした。いかなる理由からか、彼は地底へと封印されてしまったのです。おそらく、当時の冒険者により討伐されたのではないでしょうか。魂の器を隠しおおせたため、存在そのものは滅ぼされることなく地の底で回復の眠りについたものと想像されます。  そして今、充分な力を取り戻した彼は、自身を封印した人間たちに復讐を果たすべく再び地上に姿を現したのです。


私を追放した学会に復讐してやるんだ


 と、ここまでがNPCの台詞をもとに組み立てた、かなり蓋然性の高い推論。しかしこれでは味気が無いので、妄想をフル回転してもう少し肉付けをしてみたいと思います。
 デレーラ墓地にそびえ立つヴァリドゥスの巨塔は、目撃者の話によると一夜にして姿を現したとのこと。密かに時間をかけて建造し、周囲の樹木を伐採することで突如現れたように見せかけた……のでもない限り、疑いもなく魔法の仕業でありジョラスコ家のシエンドラの口を借りればヴァリドゥスの空想具現化の産物ということになります。

 となるとなぜ塔の中に清めの祭壇があったのだろう、という疑問がわき上がります。大規模な空想具現化には人智を超えた構想力か或いはオリジナルとなる記憶が必要です。ヴァリドゥスは神性ではありませんから恐らく後者でしょう。清めの祭壇を各階に設置した塔がかつて実在し、彼はそれを“識って”いたのです。

***
 可能性としては二つ。  ひとつは打倒されたヴァリドゥスを封印するために、対立する聖職者たちが祭壇を設置し、灯火を護っていた。すなわち塔そのものがヴァリドゥスを封印するための建造物になっていた、というもの。これは 『穢された神殿を浄化せよ』 と同じ構図です。

 もうひとつは、実はカリファー・ヴァリドゥスは 「善い魔術師」 だったというもの。筆者のお気に入りの妄想説は、こちらです。
 才能あふれる若き魔術師ヴァリドゥスは新大陸で約束されていた栄光を捨て、理想に燃えて暗黒大陸での開拓事業へと身を投じました。草創期のストームリーチ市の発展に力を尽くし、争いのない社会づくりに人生を捧げた晩年の彼を待っていたのは、手つかずの富を求めて新大陸から雪崩れ込んでくる冒険者や商人や新興宗教家たちと、かれらが連れてきた不和、争い、貧困でした。

 いまいちど開基の理念を取り戻すべく立ち上がるヴァリドゥスですが、すでに過去の人である彼の言葉に耳を傾ける者など誰も居ませんでした。逆に竜紋家の軋轢に巻き込まれ、よく他人の汚名を着せられるようなことも、あったかもしれません。
 財も名誉も失って不遇の死を遂げた彼は人類社会に絶望し、森羅万象に呪いを放ち、リッチとして蘇ったのです。その瞬間、彼が生涯を過ごした白亜の塔は醜くねじ曲がり、彼が仕えた秩序と献身の神を奉じる祭壇は永遠に穢されたのでありました。


I'll be back


 最後にもうひとつ。筆者がDMならこのようなシナリオにするだろう、という案。
 人類種族による本格的な探索が始まってたかだか二百年弱しか経っていない暗黒大陸で一介の冒険者に 「ヴァリドゥス…だがやつはとうの昔に死んでるぞ!」 と言われる(=記憶されている)程度の若いリッチ「もう何百年も、こんなに楽しめたことはない!」 などという台詞を口にする時点で設定に破綻が生じているのです。そこでこの齟齬を無理矢理解釈してみます。

 いまから五百年、ゼンドリック新王国の都ストームリーチをを重ねた強大なリッチ、カリファー・ヴァリドゥスが襲います。彼は不死の軍団を操って王国を攻略し、都を恐怖のどん底へと落とし入れました。
 しかしドル・アラーに仕える聖騎士と、彼に従う正義の冒険者たちが流星のごとく現れ、闇の軍勢を次々と撃ち破って遂にはヴァリドゥスを居塔の最上階まで追い詰めてしまいます。

 階下を聖なる祭壇で浄化され討って出ることも叶わず、何より大切な魂の器を破壊されもはや後がないヴァリドゥスは、持てる力の全てを注ぎ込んで最後の賭けに出ました。

 なんと彼は空想具現化の力を応用して、を〈時空錨〉とした時間遡行を試みたのです。
 彼の王座がある最上階は今の時空にとどまりますが、をひとつ降りるごとに時計の針はひとつ戻り、壁のローマ数字はひとつ小さくなり、そして建物が実体化している時代が五十年遡るのです。
 十階下、すなわち一階の玄関が開放された先は――そう、五百年のストームリーチ市でありました。

 ヴァリドゥスは自分を追い詰めた男の祖先が、五百年前、かつての最終戦争後に新大陸から渡って来た伝道団の随行聖騎士であることを突き止めていました。こいつを殺せば歴史が書き換わり、仇敵は産まれてこなくなる。こいつを殺せば……!!
 仇敵の祖先である聖騎士がただの聖騎士ではなく、蘇生も出来れば分解光線も放てるイヴェ持ち聖騎士であったのはヴァリドゥス最大の誤算でした。

 というわけで、しようもないオチをつけておしまい。
 次回はそうをあけずにウィスパードゥームを掲載して、その後は、今さらですが VoN こと〈常夜界の宝物庫〉の解釈と鑑賞に取り組んでみたいと思います。それではこの辺で。

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コメント(6)

塔の階数を示すローマ数字、時計の文字盤を連想しませんでしたか?
私の中ではあれを見た瞬間、「階段を上る=時間を遡行する」 という図式が確定しました。

更新ktkr
ネームド敵書かれてるけど、一度も遭遇したことないぞ 引き悪いなorz

お美事!!お美事にござる!!
なるほど、ターンアンデッドとは盲点でした。そう言えばD&D3eの公式シナリオにも似たような仕掛けがありましたね。
そして役には立たないのですね…せめて骨まで浄化してくれれば。でも面白い(笑)

妄想ストーリーもいいですね。TRPGのシナリオにするなら、それくらい作りこむとやりやすくなりそうです。

次はウィスパードゥーム、そしてついに(いまさら、ではなく)ヴォールト・オブ・ナイト!
シナリオの内容もストーリーも、個人的には未だDDOでトップを飾っているだけに期待してます。
無理しない程度に頑張ってください!

樹木を伐採ってどこかで聞いたネタだと思ったら石垣山の一夜城ですね
あの貧困なシナリオからよくもこのボリュームをw

最後のシナリオ、まんまターミネーターやん!
と突っ込もうとしたらちゃんとサブタイトルがI'll be backなってたね
ドル作戦はネバーセイネバーアゲインで合ってます?

ヴァリドゥス……頭のネジが1本足りない、ちょっとお茶目な究極超人を創造しちまうんですかねw

ロボットのくせにメシを食うな、メシを!

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