モジュール3.1〈悪しき復活者〉で追加された新クエストのひとつ 『ウィスパードゥームの落とし仔』 の地図です。
城砦が陥落しホブゴブリンとの同盟関係が反故になったのも束の間、今度は彼女はオーガメイジの部族に連れ去られます。
いままでの数倍にも及ぶ広さの住居を与えられ、ふたたび新鮮な餌を約束され、あまつさえ魔法の力までも授けられ、以前に比べると破格の待遇を手に入れた彼女。より強力な娘たち〈落とし仔〉を産み出し、今一度強力な軍隊をつくりあげ、オーガ達に提供しようとしています。冒険者たちはこの新たな同盟を打ち砕くことができるでしょうか。
…と、シナリオそのものは公式の告知そのもので単純明快、なにひとつ考察する余地がありません。
そこで今回は 「脇役」 あつかいのオーガメイジについて触れたいと思います。
はたしてオーガのメイジなのか
コボルドのシャーマンは、コボルド・シャーマン。何を当たり前のことを、と言われそうですが、それではこれはどうでしょう。
ホブゴブリンのウィッチドクターは、ホブゴブリン・ウィッチドクター。
オーガのメイジは、オーガメイジ。実はこれは誤りなのです。
オーガメイジはオーガのメイジではありません。オーガメイジとオーガは類縁ですが別の種族なのです。
よく観察してください。オーガメイジはオーガとは微妙に骨格が異なります。肌の色も青いですし、額には角も生えています。空を飛び、躰を気体化し、秘術呪文ではなく呪文様能力を操ります。
賢く生まれついたオーガが長じて魔術師になったのでは、決して無いのです。
それではこのオーガメイジとはいったい何者でしょう。
理解を深めるために、二つの側面から見ていきたいと思います。ひとつはこのモンスターの原典、もうひとつは公式設定すなわちD&D標準宇宙観の中での扱いです。
出典のちがい
オーガメイジの収載は驚くほど古く、なんと1974年版つまり初版の Original Dungeons & Dragons、通称 「白箱」 にまで遡ります(ちなみに私たちが慣れ親しんだ新和の赤箱、青箱は第4版に相当)。さっそく 「Monsters and Treasures」 を紐解いてみましょう。
オーガについては外見の描写が無く、冒頭からパラメータの説明に入っています。これは西洋社会では民間伝承というコンテクストのおかげで、Ogre という言葉がどの人の心にもほぼ同一の姿を結像するからだと思います。早く寝ないとオーガに食べられるよ、とか言われるのでしょう、きっと。
一方でオーガメイジは、
Ogre Magiなんと日本起源だというのです。
These are properly Japanese Ogres, far more powerful than their Western cousins! An Ogre Mage has the following abilities in addition to those of a normal ogre: (skipped) These abominations typically lure or raid for human victims to pillage, devour, or enslave.
他の文献ではよりはっきりと、「オーガメイジはオニ(スピリットorデーモン)であり、春になるとセチブン・フェスティバルでソイビーンズを投擲される」と書かれていたりします。
しかし読者の皆さんのなかには 「30年も昔の設定だし、いい加減な日本の知識をもとに作ったに決まっている。今はもっと洗練されて、日本色などすっかり抜けきっているに違いない」 と思われる方もいるかもしれません。
そこで昨年11月に発売されたばかりの 『Dragon Magazine』 誌349号に掲載されたオーガメイジ特集の挿絵を紹介します。
WoC社の公式記事 「Monster Makeover: The Ogre Mage」 にも同様の風味を持った挿絵(これやこれ)があります。
いかがでしょうか。モンスターの出典は単なるオリジナル探しという興味の範疇にとどまるものではありません。プレイヤーにそのクリーチャーの容姿を想像させるうえで欠かせないコンテクストなのです。その点、オーガメイジはオーガとまるで異なった出自、まるで異なった容姿が想定されていると考えるべきでしょう。
つまりオーガは西洋の民間伝承に登場する食人鬼が起源、オーガメイジは日本のオニが起源であり、かつ現在も各々について原典どおりのイメージがプレイヤー間に保たれ続けている、ということです。
設定上の位置づけ
つぎに、D&D標準宇宙観での扱いを見ていきたいと思います。
オーガメイジやその類縁種族であるオーガ・トロルは、とある神性と深いつながりがあります。下層次元界すなわち我々が “地獄” と呼び慣わす世界の中でも〈混沌-悪〉の属性を持つ〈奈落〉、その第524層〈砕石地獄〉に君臨する “破壊者”ヴァプラクです。
暴力が全てを支配した原始時代、ヴァプラクは多くの人間種族に崇拝されていました。邪神の司祭はおぞましい生贄の儀式を繰り返し、見返りとして血筋に闇の祝福を受けました。信者の子孫たちが代を重ねるにつれ筋骨たくましく、大きな体になっていったのです。
長い年月が経ち文明の勃興とともに人間種族のほとんどはより慈悲深い神々のもとへと去り、ヴァプラクを崇めるのはごく小規模な氏族だけとなっていました。そして彼らは既に人間とは似ても似つかない姿
他の “文明的な” 神々に信者のほとんどを奪われ力の源を失ったヴァプラクは、下界の支配権を取り戻すべく〈奈落〉に住まう三人の息子を定命の者へと転生させ、地上に遣わせました。彼ら
しかしこの行いは完全に時代遅れのものでありました。
オーガやトロルと化した崇拝者の血族がいまだ原始的な共同体を営んでいた一方で、周辺地域では国家が成立し、軍隊が整備され、戦に備えて魔法技術が怠りなく研究されていました。
オーガがいかに蛮勇を誇ろうと、率いるのが半神にも等しい存在であろうと、鉄で身を固め魔法技術の支えがある高度に組織化された戦力の前では勝ち目がありません。ヴァプラクの息子たちは予想外の敗戦を重ね、ついには辺境の荒地へと追いつめられてしまいます。
屈辱的な敗北を目の当たりにしたヴァプラクは激怒しました。彼は敗軍の将たる三人の息子たちから神性を剥奪し、〈奈落〉から永遠に追放してしまいます。
そして荒れ果てた大地へと追いやられた息子たちが下界と交わって生まれた血筋が、ほかでもないオーガメイジなのです。
なお余談になりますが、『絡根渓谷』 の第7章 『最後の一手』 で城砦の外郭を預かるオーガの将軍がムージュという名前です。偉大な先人の名前を貰ったのでしょうが、ニクい設定です。
オーガメイジのまとめ
以上まとめますと、
- オーガメイジとオーガは設定上、類縁ではあるが別の種族である。
- オーガメイジはオーガのような人型の怪物よりも、どちらかというと魔族に近い性質を持っている。
- オーガは西洋の民間伝承に登場する食人鬼のイメージである。
- オーガメイジはオーガの魔術師化ではなく、日本のオニのイメージ、おそらく現実にはより漠然と、「なにやら東洋的な怪物」 のイメージをプレイヤーに与える。
魔法鬼族ちゅうかなたてもの
さて本クエストではオーガメイジの村落が登場します。
装飾的で派手な色づかいの建築様式をを見て、「あぁまたテクスチャの使い回しか」 と思った方がほとんどかもしれません。
しかし、DDO において中華風の建築様式に意味があることは以前のエントリでも述べた通りです。レストレス諸島に点在する建築物や 『狂気の夢』 で登場する建物など、これらにはすべて 「〈夢幻界〉の住人クオリが建造した」 という共通項があるのです。
DDO の建築意匠はかなり良く出来ていて、人間型種族は言うに及ばず、石組みの大型建造物は巨人族、洞窟の壁面を利用した三次元的都市構成はホブゴブリン、といったように建築物の外観から作り手を推定することができます。すなわち文化背景まで考慮に入れたデザインを行っています。
したがって、憶測に過ぎませんが中華風の建築様式がクオリを想起させる記号的な役割を担わされていたとしても、充分納得のいく話だと思います。
しかしそうなると、本クエストへの適用が難しくなってしまいます。
オーガメイジの村落は実はクオリの遺跡だった、などという話は少なくとも筆者は聞いたことがありません。困りました。
そこでもうひとつ苦し紛れの解釈を考えてみます。
前述の通りオーガメイジは東洋風モンスターです。そしてこの氏族は 「オーガメイジもいるオーガの集団」 ではなく、「オーガメイジが中心となった集団」 であることが随所に示されています。
したがってこの村落は 「オーガメイジ文化の薫り漂う街並み」 でなければいけません(笑わないでください)。これなら内装が中華風であるのも納得がいきます。もっとも厳密に言えばオーガメイジは日本由来ですが、その辺は目をつぶりましょう。
さらにクオリとオーガメイジの文化を一元的に説明すべく妄想を駆使してこじつけるならば、エベロン設定ではオーガメイジはクオリの影響を受けている、という説も面白いかも知れません。そもそも前述したオーガメイジの由来はあくまでD&D標準宇宙観に準拠したもので、〈奈落〉も無ければヴァプラクも居ないエベロンではまた別の起源があるはずです。
標準ルールブックには記述されていませんが、実はいわゆる「典型的な」オーガメイジはムアジュの裔で、他にもアノリの子孫として思念力者タイプのオーガメイジが存在すると伝えられています。思念力といえばクオリ、クオリといえば思念力。
そうです。オーガメイジの祖先は、カラシュターすなわちオーガの心身とクオリの精神体が融合したものだったのです。謎は全て解けた!!
おわりに バインドについて少々
最後に
本クエストではダンジョン中に3つのバインドアイテムが落ちており、これをNPCのところで交換することにより低い確率で有用なユニークアイテムを取得することができます。そのため譲渡不可アイテムの取得権について予めルールを定めることが多いようです。
気になるのは、いわゆる “バレ無し” の初回プレイで譲渡不可アイテムを拾ってしまった人を非難する向きがあることです。こういった人達は、とかくレイドクエストのシャードを引き合いに出して、譲渡不可と明記されている以上は不用意に拾うべきではない、と主張します。これに対しては、ふたつの点から強く反論を述べておきたいと思います。
ひとつは、誰もがレイドに参加し、シャードを手にしたことがある、あるいはそのシステムを知っているとは限らないということです。
もうひとつは、シャードなどよりはるかに多くの譲渡不可品が、背景世界のヒントを示す存在として、ダンジョン中に無造作に落ちているということです。たとえばマリリス前提クエストのひとつ 『血の供物』、あの中に〈リヴィングストンの日記〉という譲渡不可アイテムが落ちているのを、貴方は御存知でしたか?
毎週のようにレイドファームを繰り返し、あるいは速解きしかしないような人のことは知りませんが、クエスト内の情報を丹念に拾いながら進めている方にとっては、譲渡不可アイテムは単なる 「特殊な情報源」 のひとつと理解されている可能性があります。
このような場合、譲渡不可アイテムを率先して拾い、その情報を周囲に報告しようとする人だって居るでしょう。これは通常のプレイスタイルの範疇であり、非難される筋合いは全くありません。
「譲渡不可アイテムはパーティの了承を取ってから拾うもの」 というのは完全にプレイヤー視点の発言であり、個々人がそういう流儀に則って行動するのは勝手ですが、他人に要求するものではありません。
ゲームコミュニティの閉塞化を避け、裾野を広げてゆくためには、できるだけ 「やりこんでいない」 プレイヤーの目線を基準にして物を考えるべきだと思うのです。せっかく読んでくださってるブログで楽しくない事を書くのは心苦しいのですが、この頃の流れはさすがにどうかな、と思いましたので。
さて、次回は予告通り VoN にとりかかるか、もしかするともうひとつ記事を挟むかもしれません。では。
本来、オーガメイジは前線に立って戦うモンスターではなく、奸智を尽くして冒険者たちを混乱させ、手下を使って攻撃を行う、搦め手を得意とする敵役です。その点、DDOでの運用にはかなり不満が残ります。
ガチで戦わせると同じCRの他モンスターと比較し、かなり見劣りがしますので、運用には工夫が必要である、とWoCの記事にも書かれているのですが…(M.Mearls, Monster Makeover: The Ogre Mage)
バインドについては書いてから後悔しています。でもそれを押しても書くべきかな、とも思っています。
毎回楽しく読ませてもらってます。
と言うよりも、自分がやってた赤・青箱が4版だというのは、新鮮な情報でした。^^;
そして、オーガメイジはオーガの魔法使いだと思ってたりもしました。
ハーバーから出直して、ちゃんとメッセージ読み直すかな。
本当は、冒険中にテキストをじっくり読んだり、景色に感動したり、そういう空気があるPTに入れるのが一番なんですけどね。
オニのイメージというものが日本人の脳内に存在する架空の「鬼」であることに留意してください。文献を読み解く際は、彼らの「鬼」に関する知識の正確さについて詮索することは全く見当違いであり、むしろ彼らが「鬼」をどのように想像しているかについて正確に理解し(例:海洋堂、千鶴さん、ラムだっちゃ)、今回であれば欧米人の想像する「オニ」像との補正を適切に行う必要があります。
スレ汚しスマン
もう次のモジュール来るみたいですけど
VoNとどちらを先にするんでしょうか?
(ネクロ2ならVoN優先にして欲しいなとか勝手なことを。。。)